2008年12月18日

演劇大学in札2008 プレゼミ・レポート

■日時:2009年11月29日(土)19:00〜22:00   
        11月30日(日)10:00〜18:00

■場所:生活支援型施設コンカリーニョ
■講師:青井陽治 
■参加者:30名
■見学者:1名
■内容

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 一線で活躍されている演出者の皆さんと札幌の演出者が共同で作品に触れ
るという内容で始まった昨年の「演劇大学in札幌2007」。一変して今年は、
「札幌の演出者や役者は、戯曲を読み、話すことができているのか?」という疑
問から端を発し、講師に青井陽治さんを招いて、シェイクスピア『ハムレット』に
取り組むこととなりました。

 『ハムレット』を通し、「俳優が戯曲と向き合う一週間」。そのプレゼミとして今
回の二日間が用意されました。このプレゼミまでに、青井さんから出された宿
題・・・

 ・『ハムレット』(シェイクスピア 大場建治訳) 
 ・『欲望という名の電車』(テネシー・ウィリアムズ 青井陽治訳)
 ・『動物園物語』 (エドワード・オールビー 青井陽治訳)
 ・『ソフィストリー』(ジョナサン・マーク・シャーマン 青井陽治訳)
 ・『あなたまでの6人』(ジョン・グエア 青井陽治訳)

 上の5つの戯曲を熟読してくることとのことでした。どの戯曲も現代の演劇を
考える上ではキーとなる作品ばかりです。それぞれに味わい深い戯曲と向か
い合った後のプレゼミとなりました。


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■プレゼミ第一日目(11.29)

 <戯曲を読み解く>

 今回の主要テキスト『ハムレット』についての講義が行われました。
 まず、戯曲『「ハムレット』について。

 今回、青井さんが指定されたのは大場健二さんの訳でした。最初に「何故この訳
なのか?」が語られました。現在さまざまな訳者によって訳された『ハムレット』が出
されていますが、原文の語順やリズムに一番忠実で、意味的にも過剰な装飾に走
らず、的確に原文の内容を伝えているのが大場訳なのだそうです。
 なるほど、大場訳『ハムレット』は、原文と併せて対訳という形でレイアウトされてお
り、もともとシェイクスピアが書き記したリズムに近く訳されていることが確認できます。

 原書の力強く美しい文体自体を、元に近い形で味わうことができます。語順、語
感、リズムにこだわることも戯曲を読み解く上では大変重要であるとお話しいただき
ました。

 また、戯曲を読み解く上で大切なことは、その当時の世相、風俗など多岐にわたる
考察はもちろん、初演当時の劇場の構造とそれがもたらす舞台と客席の関係性を知る
ことが重要であるという話に、青井さんは触れられました。

 有名な『ハムレット』の数カ所の独白も、当時のグローブ座の構造と観客席の関
係・距離を考えると、内心の独り語りというよりは、物語の進行を一旦止めて、観客
と語り合う時間だったのではないかとい見解も示されました。これには、目から鱗が
落ちる思いでした。

  その他にも、青井さんは、〈戯曲を読み解く〉という視点から、熟読が宿題と
なった戯曲にも、さまざまな角度から触れられました。また、それに付随して、現在
の日本の演劇をめぐる状況も語られ、奥が深いものとなりました。

<国語の時間から演劇の時間へ>

 さまざまな楽しい話も混ぜて語られた前段の〈戯曲を読み解く〉の話から一転し
て、後半は「俳優の仕事」「演出者の仕事」が中心となり、シリアスに語られまし
た。

 青井さんが再三話されたことは、演出家や俳優が「戯曲を読む」ということは「台
詞の内容解釈も重要だが、文体を理解することが何より重要」ということです。

 感想文を書くなら、国語の時間の読解力で事足りるが、演出家や俳優の理解は
それでは入り口に立ったに過ぎない。台本に書かれていることをきちんと理解する
ことは当然だが、それで演技はできない。観客や読者や評論家にはできない読み
込みに踏み込まなくてはならない。「演劇の時間」は、そこから始まる。

 それが、1月のテーマになるようです。

 その時、語られなければならないのは、「文体」であるというのが、青井さんの講
義の根幹でした。「国語の時間」的解釈に留まっていては、芝居にならないだけで
なく、俳優の自由が阻害されてしまうという点も話されていました。

 文体を語る。
 文体と戯れる。

 様式性の強い演劇はもちろん、いわゆる「リアリズム」の演劇の場合も、この感覚
は大切だと考えます。むしろ、「リアル」という「文体」と認識することによって、
表現はより的確に、自由になると、青井さんは強調します。

 舞台の演劇に完全な、または、単純なリアリズムは存在しません。劇場という場所
で、繰り返し上演されることを考えれば、当然のことです。どんなに「現実」に近く
見えても、さまざまな約束事を、俳優と観客が共有しなければなりません。それを
「様式」と呼ぶなら、この世で一番リアルな演劇にも、様式はあるのです。

 「文体」とは、まさにこの「リアル」と「様式」の比率に他なりません。両方を一
時にひとつの身体に内包し、体現するのが俳優の仕事です。演出家が真っ先にしなく
てはならない仕事は、戯曲ごとに異なるその配分の比率を明確にすることです。それ
に従って、演技だけでなく、舞台美術の様式も、衣装や照明や音響など、舞台を形作
るあらゆる要素の「文体」を統一したり、時に故意の逸脱を謀るのが、演出家の仕事
であると語られました。

 これは、私たちが芝居を創る時、当然のこととして対峙しなければならない問題で
す。それと向き合うことを学ぶのが、この演劇大学の趣旨であると、受講生は受け止
めています。

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■プレゼミ第二日目(11.30)

<行為に変換し得る会話体の文学>

 二日目は『ハムレット』の台詞に、実際に触れる作業に進みました。
 まずはその準備です。『ハムレット』の台詞について、具体的な講義がなされました。

 この戯曲の特色は、ブランク・ヴァースという、独特の英語で書かれていることです。
それがどのように訳されているか、上演の質に結びつく重要な問題として取り上げられ
ます。

 『ハムレット』は、主人公のハムレット王子が語る6つ(7つと数えられることもある)の
独白が有名です。その最初の独白を取り上げ、青井さんの講義は進んで行きました。

 前日での講義でもあったように、単に台詞の意味を語るのではなく、戯曲を「行為
に変換可能な会話体の文学」と捉え、台詞から立ち上がるドラマを探り当てる取り組
み方が、繰り返し説明されました。

 その中で、熟読が課題となっていた『動物園物語』『欲望という名の電車』などに
も触れ、ドラマの根底にある「対立」を、いかにして読み解くかが、例題として検証
されました。

 『欲望と言う名の電車』の場合、その登場人物ブランチとステラが、日本の上演で
は「対比」の構造として提示されることが多く、「対立」を読み取れない日本人の弱
点が示されました。それでは二人のアイデンティティーが見えてこないことを青井さ
んは指摘します。生きている芝居には、「対立」構造が必要であることも、強く訴え
ていらっしゃいました。


<ハムレット第一独白から> 

 そのような戯曲のとらえ方のアウトラインを話された後は、いよいよ『ハムレッ
ト』の第一独白についての講義となりました。まず、この独白の(と限らず、すべ
ての台詞を考える時)俳優は、それを真実と捉え、一生懸命うまくしゃべろうとする。

 ・しかし、この台詞をハムレットは好んで話したいわけではない。彼にとって、言い
  たいことではない。
 ・この台詞をどこまで話したら気がすむのか、ハムレット自身もわからない。
 ・途中で邪魔が入って、言い終らないうちに、宴席へ呼ばれてしまうかも知れない。
 ・つまり、ハムレットは、この長い独白の一言一言を「最後の一言」として話さなけ
  ればならない。

俳優が、まじめに、長台詞を、ひとつのまとまりとしてしゃべればしゃべるほど、台
詞の性質と食い違って行く。

 どこでブレス(息継ぎ)をするかということの重要性など、テクニカルな内容にも
青井さんの講義は言及して行きました。

 ・台詞を構築する作業は、煎じ詰めればブレス・プランを作ること。
 ・息の切れ目は意識の切れ目。

 この他に、台詞のサブテキストを作る時に必要なこととして次のようなことを挙げ
られました。

 ・この台詞は真実なのか、嘘なのか
 ・嘘だとしたら、その人は嘘だと認識しているのか、無意識なのか
 ・言いたいことなのか、言いたくないことなのか
 ・言葉が発せられる時、頭の中には、どんな意識・イメージがあるのか
 ・それはどこで切り替わるのか

ハムレットを演じる多くの俳優の間違いはどこで生じるのか。

 ・独白を上手に演じようとしたがるがために、一言一言を「最後の一言」として語
  れない。
 ・流れの美しさに足を取られ、「予定されたひとかたまりの言葉」として語ってし
  まう。
 ・台詞の意味と役の人物の意識をつなげられない。


<ブレスポイントと意識の流れ>


 「俳優は台詞の解釈を語るのではない。台詞を行為し、意識を語り、文体と戯れ
る」という、青井さんの講義の中によく登場したのは、サンフォード・マイズナーと
いうアメリカの演技指導者です。

 メソッド演技の厳密な構築性に加えて、どうしたらその構築性によって演技を硬直
させることなく、20世紀後半以降の時代に相応しいライヴ性を獲得して、メソッドを
古びさせないかを実践した改革者ということです。

 一方で青井さんは、マイズナーに踏み込む前に、メソッド演技(または、それと同
様の演技の構築法)を学ぶことが先決だと強調されました。

 しかし、演技にライヴ性を加えられるだけでなく、マイズナー・テクニックで分析
できる戯曲は古典の中にもあり、更に近年には、マイズナー・テクニックを前提に書
かれた戯曲さえあると聞くと、興味を持たずにはいられません。

  マイズナー・テクニックのトレーニングは、自分の中にある衝動(パルス)を感じる
センサーの精度を上げることが目的なのだそうです。しかし、そのパルスを根拠に、
パフォーマンスのライヴ性を上げるのはともかく、そのパルスで戯曲を読み解く作業
ができる、まして、マイズナー・テクニックで書かれた戯曲さえあると言われると、
興味はふくらむけれど、うかつなアプローチはできないなとも思います。

 青井さんも、「マイズナー・テクニックは誤解されやすい。早呑み込みは危険だ」
と言われます。トレーニングも、非常に繊細なものらしいです。

  正しい理解への第一歩として、これまで感情を根拠に分析し、語ろうとしていた台
詞を、意識で分析し、語ろうとする。そこから始めては、というのが青井さんの考え
方です。
 
 「感情」から「意識」へ。


 「性格」による分析から、一方で「DNA」に根拠を求め(前世の記憶)、一方で想定
外の刺激に対して、性格を超えて反応する現代人の行動体系を発見する「超性格」
へ。

  「国語の時間の理解から演劇の時間の理解へ」というテーマが繰り返されます。そ
れなくして、正しい「リアル」も「文体」もあり得ない。「意識」で台詞が分析でき
れば、意識の変わり目に「呼吸」の変わり目が一致することにも、気がつくはず。
「台本はいくつもの意識の流れのダイアグラム」という言葉も聞かれました。
 
 今回の演劇大学の課題は、このあたりにありそうです。


************************
 
<本ゼミに向けての課題>

 本ゼミに向けて青井さんから幾つかの宿題がでました。

@ハムレット第一独白を勉強すること。暗記できるまで、何度でも読む(暗記しよう
 としてはいけない)。

Aノートを作る。
 ★ハムレット第一独白をノートの左端に書く(1ページ1行なのでかなりのページ数
  になる)。
 ★ページの余白を自分の考察で埋める。
  ・まず、書き写した台詞の右隣の行に、自分なりの「現代標準語訳」を書く。
 ・次の行に、自分が使っている最も日常的な言葉で「自分語訳」を書く。方言のあ
  る人は是非方言 で。
 ・次の行には、「心の台詞」、つまり、サブテキストを書く(数行を使って、数通
  りの可能性を書けたら 書く)。
  ・次の5行には、ハムレットの五感が現在感じているものを書く。
 ・次の5行には、台詞(意識)が現在以外の時間に行っている時、その時間にいるハ
  ムレットが五感 に感じているものを書く。(この時も、ハムレットが現在・現実の
  時間で五感に感じているものは書く)

 ここまでやっても15行程度。まだ、ノートには右側に余白が残っているから、思い
ついたことを、すべて書く。

Bオフィーリアの独白についても、同じ作業を行う。(大場版『ハムレット』3-1 
 p165  L146)

C本ゼミで使う予定の、トム・ストッパード『15分ハムレット』を熟読する。 

 二日間のプレゼミから学んだことを、本ゼミにつなげる橋渡しとしての課題です。
 「演出家と俳優は、どのように戯曲に触れるべきか」という、原始的な疑問から端
を発した今回の演劇大学ですが、講義の内容は、私たちが今一番必要とする深みに立
ち入って行きます。

さらに、ドラマを創り上げるというシンプルな楽しみにも、同時に触れている気がし
ます。


文:実行委員 渡辺豪

posted by sapporo at 17:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 2008年/プレゼミレポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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